長期記憶とは何か?
長期記憶とは、記憶を保持できる時間によって分類した際の、長期的に保持可能な記憶を指す言葉です。これとは対照的に、保持される時間が短い記憶を短期記憶と言います。
では、長期記憶について詳しく見ていきましょう。
長期記憶のメカニズム
勉強をした際など、すぐに記憶を長期的に保持できるようになれれば、と感じたことがある人は多いでしょう。しかし、残念ながら私たちは一度獲得した知識を、すぐに長期記憶として保持することはできません。この理由は、短期記憶と長期記憶のメカニズムにあります。
人がまず情報を獲得した際、それは短期記憶として保存されます。保存と言っても、わずか数十秒の短時間しか保持されません。しばらくするとすっかり忘れ、思い出すことができなくなります。
しかし、短期記憶を何度も反復すると、それはやがて長期記憶に移されます。脳がその情報の重要性を認識し、長期的に保存すべき情報だと見なすようになるのです。こうして一度長期記憶として保存された情報は、年単位で頭の中に保持されることになります。
記憶の種類
先述したように、記憶は保持される時間によって分類されます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
長期記憶
反復によって短期記憶の中から選別され、長期的に保持されるようになった記憶のことです。言語として表現できるかどうかなどに基づき、さらに細分化されます。
長期記憶として保持される情報も忘却されることがありますが、それがどのようなメカニズムなのかははっきりしていません。時間の経過によって減衰する、覚えてはいるけれど思い出すのが難しくなる、あるいはほかの記憶と混ざり合って曖昧になるなど、さまざまな説が唱えられています。
短期記憶
一度覚えても、すぐに忘れてしまう記憶のことです。たとえば、暗算をする際には頭の中で数字を操作しますが、これは暗算の最中だけ保持される記憶で、それが終わればすっかり忘れられてしまいます。あくまで情報を処理するための机のようなものであり、情報を保存するための仕組みではないため、容量は限られています。
感覚記憶
聴覚・視覚・味覚・嗅覚・触覚の五感から獲得される情報の記憶です。たとえば、道を歩いているとさまざまな建物や人が目に入りますが、これらは感覚記憶として一時的に保存されます。
しかし、長時間は保存されます。数十秒程度と言われる短期記憶よりもなお短く、2秒程度が限界とされています。瞬間、瞬間に情報が入ってくるため、長時間保存していたら容量がいくらあっても足りないからです。しかし、そのわずか数秒の間に情報は取捨選択され、必要なものが短期記憶に移されます。
長期記憶の種類・分類
続いて、長期記憶の種類を紹介します。
陳述記憶
陳述記憶とは、長期記憶のうち言語で表現できるものです。一般的に記憶と言えばこちらを思い浮かべる人が多いでしょう。陳述記憶は、さらに意味記憶とエピソード記憶に分類されます。
意味記憶
意味記憶とは、一般的に知識と言われるものです。「地球は丸い」「私の名前は○○」「1+5は6になる」などが該当します。
必ずしも客観的なものとは限りませんが、本人にとってはこの世界の事実として認識されている情報です。そのため、個人的に覚えているというよりは、知っているという感覚で取り扱われます。
エピソード記憶
意味記憶とは対照的に、本人の体験に基づく記憶です。一般的に思い出と言われるものが該当します。たとえば、「昨日は友人のA君とサッカーをした」「小さい頃はよく海に出かけた」のような情報が該当します。あくまで本人の個人的な思い出であるため、知っている事柄というよりは、覚えている内容として認識されます。
エピソード記憶はずっと昔のことでも覚えていることがありますが、すべてが永遠に残るわけではありません。記憶が古くなったり重要性が失われたりすると、徐々に薄れてしまいます。しかし、その記憶を通じて獲得された情報は、やがて意味記憶としてその人にとっての知識となります。たとえば、子どもが転んで怪我をした場合、それは「痛かった」という思い出から、「転ぶと怪我をする」という知識(意味記憶)へと変わります。
非陳述記憶
長期記憶のうち、言葉に表現できないものです。これは手続き記憶とプライミング記憶に分類されます。
手続き記憶
いわゆる「体で覚える記憶」のことです。泳ぎ方やピアノの演奏の仕方などがこれに該当します。頭で考えて表現できるものではないため、言葉で表現することも不可能です。
手続き記憶は身に付けるまでに何度も体を実際に動かす必要があり大変です。しかし、その反面一度覚えたらなかなか忘れないという特徴があります。
プライミング記憶
前に入力された情報が後の情報の入力に影響した際、前者の情報をプライミング記憶と言います。たとえば、ひらがなの「あ」がたくさん並んでいるところに、「お」が1つだけ混ざっていても、なかなか気づけません。それは、「ずっと『あ』が並んでいるのだから次も『あ』だろう」という予測が、プライミング記憶によってなされているからです。
いわゆる先入観はプライミング記憶によるものだとされています。予測することによって1つひとつの情報を精査する負担を排除しているわけですが、予測である以上外れることがある点には注意しなければなりません。
長期記憶の容量はどれくらい?
長期記憶の容量は無限だと言われています。というのも、箱に物を入れるような、情報が容量を埋め尽くす形式での保存方法ではないからです。記憶は神経細胞同士のネットワークのパターンだと言われています。たくさんの神経細胞が組み合わさってパターンが構築されるわけですから、その組み合わせの数は極めて膨大になり、実質的に無限に記憶できるということになります。
ただし、それは覚えられる容量の話であって、思い出せる情報量のことではありません。せっかく覚えていても、さまざまな情報が干渉し合い、適切な情報を思い出せなくなることはあります。
長期記憶障害とは?
長期記憶障害とは、長期記憶として保存された情報が適切に思い出せなくなり、生活に支障を来すことです。端的に言えば、「昔のことを思い出せなくなる」ということです。
たとえば、自分が既婚者であること、子どもがいることなどを忘却してしまいます。誰でも昔のことを忘れることはありますが、一般的に覚えていて当然のこれらの情報が欠落すると、長期記憶障害が疑われます。
長期記憶の例
具体的に、どのような記憶が長期記憶に該当するのでしょうか。
勉強によって身に付けた知識
受験勉強で覚えたことを、何年も後になっても覚えていることがあります。これは、何度も同じことを反復して身に付け、それが長期記憶(意味記憶)として定着しているからです。
忘れたように思えても、再び教科書を開くなどすれば、その知識が湧いて出るように蘇ることがあります。思い出すのが難しくなっていても、記憶自体が保持されていれば、きっかけさえあれば思い出せるということです。
楽器の演奏
小さい頃にピアノなどの楽器を習ったことがある人は、大人になってもそれを体が覚えています。久しぶりに楽器を手に取ってみても、体が覚えていると自然と演奏できます。これは長期記憶のうち手続き記憶に該当する記憶で、簡単に忘れられることはありません。
小さい頃の思い出
幼い頃の思い出が、大人になっても残っていることがあります。特にそれが、初恋のような印象的なものであれば、そう簡単には失われません。その時の様子が、知識としてではなく実体験として思い出されます。これは長期記憶のうちエピソード記憶に該当するものです。
長期記憶を鍛える方法
長期記憶の容量はそもそも無限であるため、鍛えて拡大することはできません。長期記憶を鍛えたいという場合、それはきっと短期記憶をスムーズに長期記憶に移せるようになりたいということでしょう。そこで、長期記憶として知識を定着させる方法を紹介します。
反復
記憶方法としてもっとも確実な方法です。短期記憶は繰り返された情報を重要なものだと認識し、長期記憶として保存します。そのため、覚えたい物事を何度も声に出して読んだり紙に書いたりして覚えましょう。
意味付け
人は意味のないことを覚えるのが苦手です。たとえば、人との会話を覚えておくのは簡単でも、意味のない数字や記号の羅列を覚えるのは容易ではありません。
そのため、何らかの意味づけをすると覚えやすくなります。このことを活かした典型例が語呂合わせです。1192年という年号に意味はありませんが、「いい国作ろう鎌倉幕府」と語呂合わせにして覚えると記憶が簡単になります。
長期記憶になりやすい情報って?
情報の中には、わざわざ反復したり意味付けといった工夫をしたりしなくても、長期記憶になりやすいものがあります。
代表的なのは、強い感情が伴う経験です。初恋のような嬉しいものから、大切な人との死別まで、感情を揺さぶる出来事はたった一度経験しただけで長期記憶として定着します。
また、場所に関する記憶も定着しやすく、むしろ忘れるのが難しいほどだと言われています。小学生の頃の通学路を克明に思い出せる人は多いでしょうが、これはまさに場所が記憶しやすい情報であることを示しています。
なぜ場所は覚えやすいかというと、命にかかわる情報だからです。どこに何があるのかという情報は、まだ人間が自然の中に生きていた時代、極めて重要な情報でした。危険な場所を覚えておかなければ、命を危険にさらしてしまいます。
今は当時ほどではないにしても、家や職場の場所を忘れたら生活できません。そのため、一度覚えた場所はそう簡単には忘れないようになっています。
まとめ
長期記憶は一度形成されれば簡単には失われません。思い出すのが難しくなることはあっても、完全に失われることはなく、その容量も無限大だと考えられています。
勉強や仕事といったシーンでは、必要な情報を速やかに長期記憶に移したいものでしょう。その場合は、反復したり意味を持たせたりして、それが価値ある情報であることを脳に認識させることが大切です。