睡眠の学習における効果とは?
睡眠と学習の間には非常に深い関係があるとされています。詳しく見ていきましょう。
睡眠と学習の関係
睡眠中には、脳の中で情報の整理が行われています。活動時間中に外部から取り入れた情報を脳が取捨選択し、必要なものを保存してそうでないものを削除するのです。
人と喋ったり仕事をしたりした内容はもちろんですが、勉強した内容も睡眠中に整理されます。勉強した内容が、脳によって重要なものだと認識されれば記憶として定着し、そうでなければ不要な情報として捨てられるのです。
この大切な処理が行われる睡眠時間を削ってしまうと、脳が適切に情報を記憶できないことになります。一夜漬けの勉強は意味がないと言われますが、これは睡眠中の脳の働きから見ても正しい見解と言えるでしょう。
睡眠により学習効果を高める方法
情報が整理される睡眠をうまく活用すれば学習効果を高められるのではないか、というのは多くの人によって考察されてきました。そして、以下の学習方法が効率的な記憶に役立つと言われています。
就寝前の暗記
昼間学習したことは、就寝前には記憶が薄れてしまっています。この状態で睡眠をとっても、あまり記憶は定着しません。脳がその情報の重要性を認識する以前の問題として、その時点で記憶の一部が欠落してしまっているのです。
一方、夜に見聞きしたことは、睡眠前にはまだ記憶に新しい状態です。この状態で睡眠を取れば、欠落が少ない状態で取捨選択されるため、記憶に残りやすくなります。
上述のメカニズムを踏まえると、暗記は就寝前に行った方が効率的です。英単語のような暗記を主体とする学習は、就寝前に行う習慣を付けると良いでしょう。理想的なのは、就寝前の30分間に勉強し、その後すぐに眠ることです。
注意点として、くれぐれも勉強後にスマートフォンを眺めたりゲームをしたりしないようにしましょう。そちらのほうが記憶に新しくなり、勉強内容の記憶が薄れてしまいます。
起床直後の暗記
前述したように就寝前に暗記しても、すべての学習内容が記憶されるわけではありません。たくさんのことを学べば必然的に記憶の欠落も生じるでしょう。
そこで必要なのが、起床直後の抜け落ちた知識の確認です。朝の脳は、就寝中に記憶が整理され、すっきりした状態になっています。ここで欠落した情報を補完すれば、さらに記憶の定着が進むと言われています。
仮眠の活用
短い仮眠でも記憶の定着が進むと言われています。そのため、お昼などにちょっと仮眠を挟むと、午前中に取り入れた情報を効率的に定着させられます。仕事中はなかなか昼寝を取れないかもしれませんが、休日に勉強する際には有効な方法と言えるでしょう。
睡眠学習って嘘?本当に効果があるのか
睡眠学習とは、眠りながら学習する方法のことです。本当にそのような学習が可能なのでしょうか。
そもそも睡眠学習とは?
睡眠学習は昭和40年ごろに流行となった勉強方法です。「睡眠学習器」という、枕にカセットテープを仕込んだような装置が販売され、脚光を浴びることになりました。睡眠中にテープを再生し、英単語などを聞くことで知識を定着させる装置です。当時は受験戦争が過激化していた時期だったというのもあり、多くの受験生の関心を集めました。
「睡眠中も記憶をつかさどる脳の部位は活動しているため、睡眠中に聞いた情報も記憶として定着する」というメカニズムを信じ、多くの人が睡眠学習器を購入しました。しかし、本当に眠っている間の暗記に効果があるという明確な根拠はありませんでした。そのため、睡眠学習は単なるブームとして過ぎ去り、今では効果がなかったものとして認識されています。
睡眠学習は長年効果なしとされていた?
テレビや映画を見ながら眠ってしまったことがある人は少なくないでしょう。では、その人は眠っている間に耳から入ってきた音声情報を、起きた後に覚えているものでしょうか。
体験から分かるとおり、残念ながら眠っている間に聞いたことを人は覚えてはいません。映画を見ている最中に眠ってしまったら、再度その映画を見直すしかないのです。このことから、睡眠学習によって新たな知識を得るのは不可能であることが分かります。これが、睡眠学習器ブーム収束後の常識となりました。
しかし、睡眠学習器が流行していたころ、確かに効果があると実感した人も多いとされています。中には、睡眠学習とは関係なく日頃の勉強が功を奏した人もいるかもしれませんが、睡眠学習を導入して明確に成績が向上したという声も見られました。これは一体どういうことなのでしょうか。
復習には睡眠学習が効果的であることが判明
長年にわたって効果がないとされていた睡眠学習ですが、近年になって、まったく効果なしとは言い切れないことがわかってきました。
2012年5月にNatureに掲載された論文で、睡眠学習は復習に効果的であることが示されました。オランダ語の単語をドイツ人被験者に覚えさせ、1つのグループは起きたまま、もう一方のグループは仮眠中に単語の音声を聞くという実験を実施。結果として、仮眠中に音声を聞いたグループの方が、その後の単語テストで高い成績を出したのです。
睡眠学習は、新しい情報を取得するには不向きですが、すでに取得した情報を記憶として定着させるうえでは効果が見込める方法と言えます。
参考 https://www.nature.com/articles/nn.3152 https://academic.oup.com/cercor/article/25/11/4169/2366428?login=true
外国語学習に睡眠学習は効果的?
睡眠学習は覚えた知識の定着促進に効果的だと分かりました。このことから、数学のような頭を使う学習よりも、丸暗記による学習に向いていると考えられます。とりわけ、先述したオランダ語を覚える実験のように、音声情報を睡眠学習に活かしやすい外国語の習得に向いています。
外国語を睡眠学習により学ぶ流れ
では、睡眠学習を外国語の習得に応用するには、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
ステップ❶:起きている間に単語やフレーズを学習
睡眠学習はあくまで復習に効果的な勉強方法であるため、まずは起きている間に普通に勉強をする必要があります。単語や熟語、フレーズなどを読んだり書いたり聞いたりして学習しましょう。
このとき、書く・聞くなどの学習を個別に行うのではなく、セットで行うのが理想的です。たとえば、音声を聞きながら自分でも音読するシャドウイングや、書いてつづりを覚えながら発音し、つづりと発音を紐づけながら学習するのがおすすめです。
ステップ❷:就寝前に音声を再生する
続いて、横になったらすぐに音声を再生しましょう。学習した単語やフレーズを音声で流し、学習内容を復習できるようにします。
理想的なのは、音声を流して学んだことを思い出しながら、そのまま自然に入眠することです。健康的な状態であれば、夜にベッドや布団に入った状態で音声を聞いていたら、やがて眠くなってくるでしょう。学習から間断なく入眠することで、記憶を薄れさせることなく眠れます。
ただし、あまり大きな音量で音声を流していると、入眠の妨げになるだけでなく、睡眠の質が下がるおそれがあります。聞き取れる範囲でできるだけ小さな音量で流しましょう。また、朝まで流しっぱなしの状態に不安を感じる場合は、停止を予約できるソフト・アプリを使うと良いでしょう。
ステップ❸:起床後に復習する
先述したように、眠っている間に処理された記憶の欠落を埋めるには、朝復習するのがおすすめです。自分が学習内容をどの程度覚えているのか確認し、覚えきれていないものがあれば、その日の夜にも同じように学習しましょう。
睡眠学習のメリット
睡眠学習にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
学習に投じる時間が少なく済む
学習は時間との戦いです。特に受験生や社会人の勉強は、限られた時間や期間内に成果を上げる必要があり、効率を追い求めなければなりません。「眠っている間も勉強できたら」と思ったことがある人は多いはずです。
そして、睡眠学習であればその希望どおり、眠っている間にも勉強できます。丸暗記で対応できる学習内容に限られるうえ、復習にしか使えませんが、上手に使えば起きている間の勉強時間を少なく抑えられるでしょう。
定着度が高い
せっかく一生懸命勉強したのに、時間の経過に伴って知識が薄れていくことに苛立ちを感じたことがある人は多いでしょう。長い時間が経過すればある程度忘れてしまうのは仕方ありませんが、時間をかけてみっちりと勉強したにもかかわらず、三日後に忘れていたら意気消沈してしまうものです。
このようにすぐ忘れてしまうのは、まだ記憶がしっかりと定着できていない証拠です。もっと反復的に学習し、脳に情報の重要性を認識させる必要があります。
その点、睡眠学習では自然と反復学習になるのに加え、睡眠中に耳にすることで脳がその情報を重要視するようになります。結果として、少ない労力で学習内容を脳に定着させられます。
睡眠学習のデメリット
睡眠学習にはデメリットもあります。
特定の学習にしか応用できない
これまで述べて来たとおり、睡眠学習では複雑な内容を学習できません。数学における計算のように手を動かして初めて身に付けられるものや、同じ外国語でも単語と違って理解が必要な文法事項の学習には、睡眠学習を適用するのが困難です。
どれほどの効果があるのかは不透明
さまざまな実験によって、睡眠中に音声を聞かせることでその後のテストの成績が向上する結果が得られています。しかし、これは実験の期間内でのみ言えることです。もっと長い期間が経過した後もしっかりと記憶が定着しているのか、それとも成績が向上したのは一過性のものに過ぎないのかは明らかになっていません。
他の記憶に与える影響は不明
睡眠学習によって記憶を強化する際、別の記憶にどのような影響が及ぶのかはわかっていません。たとえば、ある日数学と英語を学習し、睡眠中に英単語を聞いていた場合、それによって数学の定着度が低下する可能性も考えられます。こうした影響についてもまだ不透明な部分が多いため、長い目で見たときに睡眠学習がどれほど有益かは判然としません。
睡眠学習ができるアプリ3選
睡眠学習を実践するには、音声を流さなければなりません。そこで、学習内容を音声として出力してくれる便利なアプリを3つ紹介します。
自分で作る単語帳 WordHolic!
単語帳アプリですが、読み上げ機能が搭載されています。単語の暗記に特化しているためフレーズの暗記にはやや不向きですが、並び替えやブックマークなど、単語帳として便利な機能を多数備えています。日頃の学習では単語カードとして使用し、睡眠時には音声再生アプリとして使うと良いでしょう。
ダウンロード https://apps.apple.com/jp/app/%E8%87%AA%E5%88%86%E3%81%A7%E4%BD%9C%E3%82%8B%E5%8D%98%E8%AA%9E%E5%B8%B3-wordholic/id1434981148 https://play.google.com/store/apps/details?id=com.langholic.wordholic&hl=ja&gl=US
英語の友
英語の学習教材アプリです。100冊以上の参考書のリスニング音源を搭載し、英検やTOEICなどの試験に対応しています。「書籍音源」モードでは聞きたい音声を速度を調節して再生できるほか、バックグラウンド再生では通勤・通学中や睡眠中に音声を聞き流せます。
ダウンロード https://apps.apple.com/jp/app/id1222472255 https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.obunsha.eigonotomo&hl=en_US&gl=US
YouTube
動画投稿サイトとして知られるYouTubeですが、ここでは睡眠学習に有効な聞き流しの英語音声も配信されています。本格的な暗記アプリを試すのがハードルが高く感じられるようなら、まずYouTubeで英語を聞き流すことから始めてみると良いでしょう。
ダウンロード https://apps.apple.com/jp/app/youtube/id544007664 https://play.google.com/store/apps/details?id=com.google.android.youtube&hl=ja&gl=US
まとめ
睡眠学習はかつてブームになった勉強方法です。それ以降は効果がないとされていましたが、近年の研究により、復習に対しては一定の効果が見込めることが分かってきました。就寝前に学習し、それを音声として睡眠中に聞き、朝起きて復習するというのが一連の流れです。これだけで大幅な学習効果の向上が見込めるわけではありませんが、一つの手段として試してみても良いのではないでしょうか。