知識構成型ジグソー法とは何?
知識構成型ジグソー法とは、東京大学CoREFの三宅なほみ名誉教授によって提唱された学習方法です。教師から生徒に対する従来の一方通行の授業とは異なり、生徒同士の対話を重視する勉強方法です。生徒による主体的な学習であるアクティブラーニングの1メソッドとして位置づけられています。
知識構成型ジグソー法の特徴
従来の一方通行の授業では、生徒の学習は受動的なものになりがちでした。もともと、このような授業形態が一般的担ったのは、知識を伝達するのに効率的だったからです。一人の教師が大勢の生徒に知識を伝えるのは、伝達効率という観点からは非常に優れた授業形態でした。
しかし、これでは本当に「生きた知識」が身に付きません。生徒はただ受動的に知識を取り込むばかりで、その情報の吟味も活用もしません。知識の活用はもっぱら宿題の役割であり、授業はそのための準備という位置づけだと言えます。
これに対し、知識構成型ジグソー法では、授業で情報の活用や吟味を行います。生徒同士で教え合う授業を展開し、その活動を通じて生徒は自らの言葉で学んだことを表現します。その過程で理解できていることとそうでないことが明瞭化するとともに、知識の表現法・活用法も学ぶことになります。知識構成型ジグソー法は、複雑化する社会の中で子どもたちが生きていけるよう、知識を血肉として身に付けられる方法として注目されるようになりました。
従来のジグソー法との違いとは?
従来のジグソー法は米国の心理学者エリオット・アロンソン(Elliot Aronson)によって提唱されました。このジグソー法は、上述したように学習内容に対する生徒たちの理解促進を目的としたものではありません。人種統合を目的としたメソッドです。
当時の米国では、白人と黒人の間に教育格差があり、これを是正することが大きな課題となっていました。白人の子供ばかりが積極的に授業に参加し、黒人の子どもはなかなか積極性を発揮できないでいたのです。そこで、生徒同士の交流を取り入れるジグソー法が提唱されました。こうした功績が評価され、エリオットは教育界に名を残す心理学者となりました。
知識構成型ジグソー法のやり方・流れ
知識構成型ジグソー法は具体的にどのような流れで進めていけばよいのでしょうか。
参考:https://coref.u-tokyo.ac.jp/archives/5515
ステップ❶:課題設定
まず、教師が課題を設定します。このとき、複数の知識を組み合わせて解決できるような課題を設定しなければなりません。
たとえば、国語の授業で5ページから成る物語を理解することを課題とする例が考えられます。この例を基に、次以降の流れも見ていきましょう。
ステップ❷:班分け
生徒を班に分けます。たとえば、クラスに30人の生徒がいるのなら5人組を6班作りましょう。この際、1班あたりの人数は設定した課題を解決するのに必要な人数とします。5ページから成る物語を学ぶ場合は、5人組であれば1ページずつ担当できるためちょうど良いでしょう。
ステップ❸:エキスパート活動
次は、班の中で担当する箇所が同じ生徒同士が集まり、その箇所についての理解を深めていきます。
5ページの物語を1班5人で理解するのであれば、1ページ目を担当する人のみ、2ページ目を担当する人のみといった風に新たにグループを作っていきます。そして、そのグループで該当ページを読み、理解を深めていきます。このように、自分の担当箇所への理解を深める活動をエキスパート活動と言います。
ステップ➍:ジグソー活動
ステップ❸で別れていた班員が、元の班に戻ってきます。そして、エキスパート活動を通じて学習した内容を、各班員が班の中でプレゼンします。
プレゼンが終わったら、課題の解決に取り組みます。それぞれの班員が持ち合った知識を組み合わせれば、教師が設定した課題に対してどのような解答を出せるのか、班員たちは話し合いながら正解を探っていきます。正解が出たら、それを各班がクラスの皆に向けて発表しましょう。
知識構成型ジグソー法のメリット
知識構成型ジグソー法には以下のメリットがあります。
考える力が身に付く
従来の授業と異なり、知識構成型ジグソー法では考える力が身に付きます。担当箇所について自ら理解を深めるだけでなく、それを班に持ち帰って班員に対してプレゼンしなければならないからです。単に知識を取り込むだけでなく、それを吟味し、活用するところまでを含めて学習できるため、生きた知識が身に付くようになります。
授業への積極性が高まる
ただ漫然と話を聞くだけでは、やがて集中力が途切れてしまいます。これでは教師から伝達された知識の習得さえ危ぶまれるでしょう。しかし、知識構成型ジグソー法ではエキスパート活動やジグソー活動で必然的に生徒が自ら動くことになり、積極性が引き出されます。
協調性を養える
子どもたちは社会に出た後、さまざまな課題に立ち向かうことになります。そして、その多くは一人では解決できず、複数人で協力して取り組む必要があるでしょう。
従来の授業方法では、協調性を養える場面が極めて限定的でした。しかし、知識構成型ジグソー法ならば、協調性を養い複雑な課題に立ち向かう力を身に付けられます。
知識構成型ジグソー法のデメリット・問題点
知識構成型ジグソー法にあるのはメリットばかりではありません。むしろ、効率の観点からは問題点も多く残っています。
担当箇所以外の理解度が下がる
先述した通り、知識構成型ジグソー法では班員に役割を与え、それぞれの担当箇所について理解を深め、最後に班員同士で学んだ内容を共有する過程があります。そのため、担当箇所については充分に理解できるものの、そうでない箇所については班員から軽くプレゼンを受けるだけであり、本当に理解できているのか不安が残るのが難点です。
特に、担当者の理解が浅いと、他の班員の理解も浅くなります。また、担当者が充分に理解していても、それを伝えるのが不得手であれば、正しい知識の共有が難しくなります。最終的には教師が何らかの形で正解を伝え、全員の理解が均質になるよう努める必要があるでしょう。
負担が大きい
1つの課題に答えを出すためだけに膨大な手間がかかるのも難点です。
従来の授業では、教師がすぐに正解を生徒に提供できます。問題演習などのように考える機会を確保するとしても、その後には答え合わせという形で生徒は速やかに正解を知ることができました。
しかし、知識構成型ジグソー法では班で役割を分担し、エキスパート活動を通じて理解を付加え、さらに班に持ち帰ってプレゼンをし、ディスカッションを経て発表するという大きな手間がかかります。これでは、学ぶべき全ての対象を学習し終えるまでに極めて長い期間を要することになり、本当に不足なく知識を網羅できるのかという不安が残ります。
負担が大きい
担当者は自らが担当する箇所について充分に理解を深める必要があります。これを怠れば、自分だけでなく班員の理解も浅くなり、迷惑を欠けることになるからです。
これが、生徒にとって大きな負担になることがあります。特に学習する対象が難解なものであれば、本人にどれほど積極性があっても充分な理解に及ばない可能性があります。これではむしろ不要なプレッシャーや無力感を植え付けることになり、効果的な学習とは言えないでしょう。
参考:https://swu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=6077&item_no=1&attribute_id=21&file_no=1
知識構成型ジグソー法の活用方法
知識構成型ジグソー法を活用できる場面には以下の例があります。
研修編
企業研修などのオフラインの学びの場では、これまで紹介してきたような学校での知識構成型ジグソー法をそのまま応用できます。
講師が問いを設定し、それを解決するためのキーワードをいくつか設定しましょう。そして、受講者をそのキーワードの数と同じ数のグループに分けます。
各グループにキーワードを与え、調べたり話し合ったりして理解を深めてもらいましょう。その後、各グループから一人ずつが集まった新しいグループを作成し、ジグソー活動に移ります。
各メンバーは、自分が担当したキーワードについて説明するとともに、他のキーワードについてグループメンバーから説明を受け、理解を深めます。知識の共有を終えたら、講師から与えられた問いに対する答えをグループで考えていきましょう。答えが出たら、各グループでそれを発表していきます。
このように学習することで、一度の研修で複数の事柄について理解を深められるようになります。
eラーニング編
知識構成型ジグソー法はグループで話し合うという特性上、オフラインの場でしか活用できないように思われるかもしれません。しかし、昨今一般的な学習方法になりつつあるeラーニングにも応用可能です。
受講者をグループ分けし、各グループに映像やテキストなどの教材を提供します。そして、まずはひとりで学んでもらい、その後同じ内容を学習した者同士でアンケートやチャットを用いて意見を交換します。これが、オフラインの知識構成型ジグソー法におけるエキスパート活動に該当します。
次は、エキスパート活動のグループから一人ずつ集まって新しいグループを作り、ジグソー活動を行います。オンライン会議システムのように顔を見ながら遠隔地で話し合えるシステムを駆使し、オフラインと同じように知識を共有しましょう。最後は、同様にオンライン会議システムを使って全体の場でグループ発表を行います。
上記のような方法ならば、オフラインの場で集まることなく知識構成型ジグソー法を実践できます。
まとめ
知識構成型ジグソー法とは、グループの各メンバーがそれぞれの担当箇所を学び、グループに持ち帰って知識を共有する授業形態です。持ち帰った知識は各メンバーがプレゼンやディスカッションによって共有し、最終的には指導者によって提供された課題への答えを出します。
この方法は従来の一方通行な授業を改善し、生徒の主体的な学習を促すメソッドとして注目されています。効率の観点からは問題点がありますが、上手に取り入れれば活きた知識を身に付けるのに役立つでしょう。