ツァイガルニク効果とは何か?
ツァイガルニク効果(Zeigarnik effect)とは、達成した物事より未達成の物事の方が記憶に残りやすいという心理の性質です。心理学者のクルト・レヴィンとブルーマ・ツァイガルニクが提唱しました。
なぜ未達成なことを覚えているのか?
ブルーマ・ツァイガルニクは、「人は目標に向かっているときは緊張し、それは夢中になるほど、そして終わりに近づくほど強くなるが、達成するとその緊張が緩む」と仮説を立てました。飲食店で、ウェイトレスが客の注文を記憶しているのに対し、会計時にはすっかり忘れてしまっているのを目の当たりにして思いついたと言います。
そして、この仮説から「未達成のことほど強く記憶に残る」という心理傾向の存在を提唱しました。この性質を、提唱者の名前をとってツァイガルニク効果と呼ぶようになりました。
ちなみに、日本には「勝って兜の緒を締めよ」という諺がありますが、ツァイガルニク効果の元になった仮説と同様に「終わった後が一番油断する(から気を付けなさい)」という意味です。
過去の恋愛が忘れられないのもツァイガルニク効果のせい?
過去の恋愛を引きずったことはありませんか。特に、自分から相手を振ったのではなく、相手に振られた場合には恋心を引きずりがちです。
振られた恋を引きずるのは、ツァイガルニク効果のせいだと考えられます。振られた側にとって、恋愛関係は終わったものではなく、中途半端な状態のままなのです。結果として記憶に残りやすく、何度も思い出し、さらにその反復的な想起のせいで余計に記憶が定着するという悪循環に陥ります。
また、恋愛関係に発展していない場合にも同じことが起こります。「告白すれば良かったのではないか」とか「もし告白していたら今頃はどうなっていたのだろう」など、未完了の物事に対して色々と想像を巡らせてしまいます。恋を引きずりたくなければ、その恋を自分の中で「終わったもの」として認識できるまで行動しなければなりません。
ツァイガルニク効果の実験を解説
ブルーマ・ツァイガルニクは次の実験により自身の仮説が正しいことを証明しました。
まず、被験者を以下の2グループに分けます。
A:軽作業を完遂させ、次に別の軽作業を行わせる B:軽作業を途中でやめさせ、次の別の軽作業を行わせる
そして、すべての作業が終わった後、被験者全員に「最初にどんな作業をしましたか」と問いました。そして、正解を答えた人の割合が、Bグループの方が多いという結果が得られたのです。なんと、Aグループよりの2倍も正答率が高かったと言います。このことから、中断した作業は記憶に残りやすいことが明らかになりました。
ツァイガルニク効果の活用方法をシーンごとに解説
ツァイガルニク効果を活用できる場面には以下のものがあります。
恋愛
恋愛では、以下に自分のことを相手に印象付けるかが鍵となります。そこで、ツァイガルニク効果を利用し、相手の記憶に長くとどまるよう工夫しましょう。
たとえば、仲良くなり始める段階では自分のことを少しずつ相手に教えていきましょう。一気に教えると、すべて分かったような気になって興味が薄れてしまいます。情報を少しずつ提供することで、「まだもっと深いところがあるんじゃないか」と相手の注意を惹きつけることができます。
また、デートは早めに切り上げるべきです。満足するまで楽しむより、もう少し楽しんでいたかったと思えるタイミングで切り上げたほうが、未達成の課題として長く記憶に留まることになります。
仕事
仕事において、効率的に課題を片付ける上でもツァイガルニク効果は役立ちます。タスクを終える必要がある際、切りの良いところではなく、中途半端なところで止めるのです。こうすることで、次に再開する際にハードルが低くなります。
勉強
仕事と同様に、勉強にもツァイガルニク効果を活用できます。食事などで勉強を中断する際、切りの良いところではなく中途半端なところで終えることで、再開時の負担が減ります。
ただし、仕事や勉強を中途半端なところで区切ると、それはストレスになります。モヤモヤとした気持ちになり、精神的に負担がかかるのです。そのため、就寝前に中途半端なところで課題を区切ると、ストレスを抱えたまま就寝することになり、睡眠の質が低下します。記憶に残りやすくなる反面、負担がかかる方法であることは知っておかなければなりません。
マーケティング
Web広告では非常に幅広くツァイガルニク効果が活用されています。「仕事が遅い人の9割は○○を知らない」「半年間○○勉強法続けた結果⇒」のような広告を見たことがある人は多いでしょう。一部の情報を隠すことで全貌が分からないようにし、「すべて知りたい」と思わせるようにしているのです。
この類の広告を無視しようと思っても、ツァイガルニク効果のせいでモヤモヤした気持ちになります。一度は無視できても、次に同じ広告を目の当たりにした際には気になり、ついクリックしてしまうのです。
ツァイガルニク効果を最大限活用するためのポイント
ツァイガルニク効果を最大限に活用し、生活や仕事に活かすにはどのような点に留意すれば良いのでしょうか。
最初に着手する際のハードルを下げる
勉強や仕事に着手する際、誰しも面倒くさいと思うものではないでしょうか。一方で、一度着手すると思いのほか滑らかに作業が進むことが多いです。
これもツァイガルニク効果によって説明できます。一度着手すると、中断によってモヤモヤした気持ちになるため、「それなら続けてしまおう」と思えるのです。反対に、そもそも着手していない段階だと中断によってモヤモヤすることもなく、なかなか手が動きません。
そこで重要になるのが、着手する際のハードルを下げることです。「ちょっとだけでも終わらせよう」と、あらかじめ少ない負担を想定して課題に着手し、その後は「切りの良いところまで続けたい」という心理に任せて作業を継続しましょう。
未達成の作業を少しだけ残しておく
食事やコーヒーブレイクなどを挟む際、常に未達成の課題を1つ以上残しておくようにしましょう。こうすることで、休憩から戻ってきた際の負担が軽減します。
ただし、あまりに多くの作業を残しておくと、たくさん作業が残っていることが精神的な負担になります。あと一歩のところで終わるような状態で残しておくと良いでしょう。
サイクルを意識する
集中力が途切れないようにするには、サイクルを意識しましょう。ある作業から休憩に移る際、一部を未達成のままにしておきます。そして、休憩から戻って作業を再開し、次の休憩の時にはまた一部を残しておくのです。
こうすることで、絶え間なく再開時の負担を軽減できます。再開することの面倒くささで時間を無駄にすることなく、効率的に仕事を終えられるでしょう。
休み明け前から仕事の準備をしておく
月曜日の朝になって鬱蒼とした気持ちになる人は多いでしょう。休みモードに入っていた体をいきなり仕事モードに切り替えるのは大変です。先述したように、人は何かを始める時が一番大変なのです。
この負担を減らすには、休み明け前夜の段階から仕事の準備をしておくのがおすすめです。寝る前から仕事モードに切り替えておくことで、翌朝の負担が減ります。むしろ、長く寝ていたらせっかく仕事モードに変えたのを中断することになり、モヤモヤしてしまいます。
ツァイガルニク効果の活用事例3選
続いて、ツァイガルニク効果を活用した具体的な事例を3つ紹介します。
連載漫画
連載される漫画の続きが気になって雑誌を購入したことはありませんか。経験がある人にとってはおなじみのものとなっているかもしれませんが、連載漫画は気になるところで区切られることが多いです。重要な局面に差し掛かったのに、結果がどうなるのか分からない状態で次号に引き継ぎます。
このような状態では、続きがどうなるのか気になって仕方なくなります。漫画の多くは空想の物語であり、事実としての「続き」というものがあるわけではないのですが、それでも未完了である以上は完成させないとモヤモヤした気持ちになるのです。
ちなみに、Webでよくある無料お試し漫画も同様にツァイガルニク効果を活用しています。無料で読ませても利益を上げられるのは、それによって続きが気になった人の購買意欲が高まるからです。
分冊百科
デアゴスティーニ社の商品に代表されるような分冊百科も、ツァイガルニク効果を活用している事例です。こうした商品の多くは、初回は格安で購入できるようになっています。そして、一度購入したら完成させたいと思う心理を利用して、次号以降からは通常の価格で売ります。
すべて揃えたら膨大な金額になるでしょう。たとえば、1冊500円でも20冊揃えれば1万円です。そのため、一度にまとめて販売されたら高額すぎてあまり売れないことが予想されます。それでも、一度始めたら中断したくないという心理を活用し、ちょっとずつ販売すれば大きな利益を上げられるのです。
テレビCM
最近、「続きはWebで」「○○で検索」というテレビCMが増えました。スマートフォンが普及し、誰でもすぐにインターネットを利用できる環境だからこそ生まれた新しい宣伝方法と言えるでしょう。
この類のテレビCMもツァイガルニク効果を利用しています。中途半端なところでテレビCMを中断し、続きが気になるような状態でWebサイトに誘導するのです。そして、そのサイトから商品・サービスの購入につながるような道筋を用意し、利益を狙います。
ツァイガルニク効果はストレスにつながるって本当?
先ほど少し触れましたが、ツァイガルニク効果はストレスにつながります。
たとえば、仕事を中途半端なところで切り上げて休憩し、休憩後に再開する場面を考えましょう。このとき、再開時の負担は軽減します。中途半端な仕事のことが気になったまま休憩していたため、早く終わらせたいという心理が働いているからです。
しかし、これは観方を変えれば、休憩中もずっと仕事のことを考えていたことになります。あまり休憩になっていないからこそ、「休憩から仕事へ切り替える負担」が減ったのです。
本当にしっかりと休憩したいときには、切りの良いところで仕事を終え、余計なことが気にならない状態でリフレッシュしたほうが良いかもしれません。
何も終わっていない焦りはどのように対処する?
中途半端なところで切り上げると、「自分はまだ何も完了していない」という焦りに見舞われることがあります。早く終わらせたいという気持ちは、時間的に余裕があるときならば良いですが、切羽詰まった状態では焦燥とストレスを生み出すのです。
このような焦りに対応するには、まだ終わっていないタスクを明確化しましょう。人は正体がわからないことに対して不安や焦りを抱きます。反対に、たとえやり残したことがあっても、それがどのような作業でどの程度の時間を要するのかが分かっていれば片付く算段が付き、あまり負担にならないのです。
具体的には、自分がやり残したことを、一日の終わりにリスト化しましょう。そして、翌日にそれらが終わるようにスケジュールを組みます。「今日終わっていなくても明日には終わっている」と思えることで、焦りが和らぐはずです。
まとめ
ツァイガルニク効果とは、中途半端なところで作業を中断すると、その続きが気になってしまう心理傾向のことです。気になったものは記憶に長く残り、再開時の負担も減るため、勉強や仕事に役立てられます。 ただし、中途半端な状態は精神的なストレスをもたらします。勤務中や勉強中はツァイガルニク効果を利用し、一日の終わりには切りの良いところで切り上げるなど、上手に活用しましょう。